空を見上げた。








高く高く、雲は浮かんでいた。








きれいだった。








でも、分かっていた。








未だ翼を開くことの出来ない私には











一生足掻いても、届くものではないと――――――――














この広い空へ

















信じられなかった。



聞き間違いだと思った。








「私の下に…来ないか?」







その一言。




信じられる?



下級貴族の出で、平々凡々な生活を過ごしてきた私に。

だた、身体が震えた。




今でもホント、信じられない。













「………。」



名前を呼ばれて、隊長の目を見つめた。






「そろそろ…お前の返事を聞かせて貰いたい。」





私は、十数年前に六番隊に入隊した。


位は、第五席。


まさか、自分でも席官入りするなんて思ってもみなかった。




入隊当時は当初からこの隊を担っていた、


朽木隊長に憧れて。



必死だった。



ただ、強くなりたいと。



朽木隊長の様な揺るぎない眼差しに憧れて。





ただその後ろ姿を、いつも追っていた。







「お前とは、もう十数年の付き合いになるか……。」




いつからだろうか。




隊長と言葉を交わし、


同じ時を過ごして。



決して笑いはしないと思っていた彼の


微笑む顔を見て。





時より私に向けてくれる



優しい眼差しが嬉しくて。







「隊長…………私は…、」







いつからだろうか。





彼の微笑みに




心に、傍らに




自分の居場所を探していた。






隊長の心にあるのは



いつでも私でありたいと。








だけど






「…申し訳、ございません。この度のお話は…」




「何故だ…!」






いつになく声を荒げ




不安に帯びた隊長の声。




互いに想い合っていたと知ってしまったから。



尚のこと。





自分の気持ちに嘘を付くことが、




抑えても抑えても溢れ出てくる感情を封じ込めようとすることが、






こんなに辛いものだとは思わなかった。







「私には……」



「……………」





次に私が何と口にするのか



震える唇を見つめる隊長の表情。





トクン



ひどく胸が痛んだ。





でも、言わなきゃならない。






「私には……朽木家に嫁ぐことは、叶いません。」







何て弱い女なんだろう。




想う人の為に、堪えなければいけないのに。





きっと、今にも泣きそうな顔をしているんだろう。







いっそ、目を逸らしてくれれば良かった。




見損なった、と。




お前に目を付けた私が間違いだった、と。





だけど、次の瞬間私を包んだのは



隊長の小刻みに震える優しい腕だった。






『どうして…っ!!?』




心の中で、そう叫んだ。



と同時に、彼の目をキッと睨み、胸を突き放そうとした。







「お前は…思い込みが過ぎる。」



もう手に、力が入らなかった。






「一人で抱え込み過ぎなのだ。」







「……―。」






不安だった。



下級の者が、四大貴族の一角に嫁ぐということが。





名家の名を汚したくなかった。



あなたの名も、下げたくなかった。




確かな確信がない限り、



暗く淀む想いが消えることはなかった。





だとするならば



この話をなくして、白紙に戻せば。






あなたに土をつけることはない。




私だけ、心の中密かに


傷付き、嘆き…この先ずっと後悔すれば。




周りから何か言われて。




それで済むのだと。








そう決め付けていたのに。







どうすれば…





私は





「どう…すれ、ば……。」





掠れた声が涙に濡れた。








「何も、求めはしない。」






一層強まる包み込む腕の力。







「ただ私の傍に佇み、



私と共にこの世の行く末を見つめていてくれさえいれば




……それでいい。」







こんな優しさに包まれては




溢れ来る涙が止まるはずもなく。






「初めは困難なこともあるだろう…。


しかし、

何かあったら直ぐ、私に言え。




何があってもお前はこの私が守り抜く。」





「……………っ。」






「何も、気にするな。」





今なら、


何でも出来るような気がした。





隊長と一緒にいられるのなら、


何にでも耐えられると、



そう思った。





先程とは、また違う痛みが胸に走る。





「……は、いっ…。」






「今一度聞く。









私と共に、いれくれるか?」




そっと隊長の顔を見つめた。





「いや、…傍にいてくれ。」






少し、慌てたように付け加え
優しく微笑んだ。







「……はい。」





















やっと私に





翼を開く時が来たんでしょうか。










大きな手に導かれて。









今なら。







この青く広大な空へ。








飛び立っていける。










あなたと一緒なら、








どこまででも行ける。











そんな気がしました。





















緋真さんが兄様の妻だと知っていながら書いてしまった作品。
兄様、すみませぬ。
元々は、友人とのメールで生まれたネタでした。
その友人のサイト開設2周年記念に捧げますv
おめでとう!!