この日だけは、
あなたと一緒に過ごしたかった。
だって、
あなたと迎える初めての誕生日だったから・・・―
My Wish
「はい? ・・・朽木サン、今何て。」
静かな店内に店主の素っ頓狂な声が響いた。
「だから、・・・が泣いておったと言っておるのだ!」
「・・が?泣いていた?・・・・それまた、どうして。」
少し見開いた目を帽子の下から覗かせる喜助。
「どうしても何もない! 貴様が泣かせたのだ!!」
ルキアの大声だけがびんびんと響いた。
「みんな、おはよう!」
ざわつく大都会の駅のホームで。
「あぁ、おはよう!!!」
私達の一日が始まろうとしていた。
ここに集うみんな。
一護に敬吾、水色に織姫ちゃん、そしてたつきちゃんに私。
高校生活一周年記念の春の旅行 第一日目。
勿論、敬吾が無理矢理計画していたものだけど・・・。
「ってか、敬吾・・・待ち合わせ時間早過ぎじゃねーか。」
一護が相変わらず眉間にシワを寄せたまま、空を見上げた。
いい訳をしようと今にも大声を出さんばかりの敬吾に私も思わず一言。
「そうだね・・・、まだ新幹線来るまで一時間くらいあるよ。」
そう、まだ発車時間まで。
−45分
私は浦原商店のある方向を
風になびく髪をそっとかき分けながら 目を細め見つめた。
「今日は・・・、の誕生日だ。」
腕組みをし、仁王立ちになり喜助を見据える。
その言葉に はっとした。
朽木サンの言葉にしろ、のことにしろ 何かスジが見えてきた。
思い当たることが ありましたから・・・―。
そう言えば数日前、、アナタここに来ましたよねぇ・・・?
何か物言いたそうにしていたんスけど、
ちょっと店の商品仕入れに行かなきゃならないもんだから
アナタのことも考えず、
・・・追い返すも同然の事を、アタシはしてしまったんスね・・・。
不意に後悔にかられ、眉をひそめた。
「お前と迎える初めての誕生日。
一緒に過ごしたかったのだろう・・・?は。」
悪いことしちゃいましたね、。
アナタ、あの時、それを伝えに来てたんスね・・・。
そんな事も知らずにアタシは
――――ったく、情けない!
「朽木サン、・・・今どこにいるか分かります?」
平静を装っていても
もう、居ても立ってもいられなくなった。
「なら・・・、旅に出かけたぞ。連中と一緒にな。」
「旅?」
「泊まり掛けで、軽井沢とかという地までな。」
じゃあ、何スか・・・
もう今日中には会えないって事っスか?
そんな、バカな・・・!
アタシの手は、やり場のない想いを紛らわすかの様に
力一杯帽子を掴んで離さなかった。
「間に合うんではないか。」
店の外に渦巻く風が通りすぎていった。
「お前なら、な。」
朽木サンの言葉がわだかまりを溶かした。
「東京駅だ・・・。早く行ってやれ。」
「・・・東京、駅。」
「発車時刻は 9時53分!」
今の時間は 9時21分。
残るはあと、
−32分
アタシは立ち上がり、下駄に片足を下ろした。
次の瞬間には、朽木サンの横を通り過ぎ、もうガラス戸に手をかけていた。
「まっ、待て!浦原!!」
「すいません、朽木サン。今日のところはもう引き取ってもらってもいいっスかね・・。」
背中越しに彼女に言葉を放った。
「そういう事ではない!こ、これを・・・。」
ルキアは喜助に、手にある物を勧める事に対して引きつった顔をしていた。
「ん?何なんです・・。」
アタシはガラス戸に手をかけたまま振り返って、彼女が差し出す大きな袋を凝視した。
「わっ、私の意志ではないぞ、浦原!こやつが、そうしろと・・・。」
朽木サンの肩には・・・あの縫いぐるみがいた。
「もう少しかな・・・。」
私は手元の時計に目をやった。
この時計、クリスマスに喜助さんがくれたんだよね・・・。
その時の光景が思い出され、嬉しくも悲しげに微笑した。
喜助さん・・・・―。
「ねぇ、。今何分?」
「今?えーと、ね・・40分。」
「あと、少しだね!」
織姫ちゃんとたつきちゃんが嬉しそうに笑った。
私もそっと笑ったけど、・・・何か胸が苦しかった。
「あれで、よかったのか?」
「完璧っスよー!姐さんv」
残されたルキアとコンが店先で、そう呟いた。
アタシは走りに走った。
車や何か使うより、こうした方が早くていいと思った。
焦る気持ちを押さえるためにも、 こうした方がいいと思った。
あのモッド・ソウルに、とんだものを押しつけられ、
どうこうしているうちに時間を大分失ってしまった。
でも、何でアタシがこんな支度・・・
まぁ、こんなスピードで走ってちゃ誰にも見えてないんでしょうケド。
勢いあまる風に髪がなびけずにいる。
まぁ、とにかく・・・間に合って下さいよ・・・・・!
あと、9時53分まで
−8分
『×番線ホーム、折り返し、‘9時53分発 信○新幹線 長野行き’ が参ります』
無情にもホームにアナウンスが流れる。
「いい天気・・・。」
私は柱に寄りかかったまま、ホームから覗ける空を仰いだ。
そして一つ、ため息をついて。
本当なら、こんなところにいるはずじゃなかった。
みんなからの誘いを断っても、喜助さん・・・あなたと過ごしたかったの。
何だか私、空回りしてばっかりだなぁ・・・。
私だけはしゃいで、変に期待してずっと楽しみにしてて。
何してんだろ、私・・・。
どうすればいいのかなぁ・・・? ねぇ喜助さん・・。
喜助さん 聞こえてるの? 私の声。
喜助さん・・・
喜助さん・・
「・・・―喜助さんっ。」
涙がこぼれた。
「何でしょ?・・・。」
ホームに新幹線が勢いよく入ってきた。
吹き付ける風。
「 !? 」
信じられなかった。
聞き慣れた、今一番聞きたかった優しい声に振り向き、
そして涙は 吹き付ける風と共に はじけて消えていった。
「 !!!? 」
けど、喜助さんの姿を見た途端、私は彼を凝視した・・・。
「やっぱり・・・、おかしいっスかね?」
やはり、と手を首元に当てて苦笑していた。
突然のことに何が何だか分からない。
「喜助、さん?」
声は・・・喜助さん、だった。
けど、羽織じゃない・・、
足下を見ても下駄じゃない・・・、
その人の顔に視線を向ければ帽子もなく・・・、
その人の姿は・・・?
上下をシックにまとめた黒のスーツ。
足下には同じく黒の革靴。
けど、どこか見慣れた淡い色の跳ね髪。
「、どうしたんです?分からないとか言わないで下さいよ・・。」
「・・喜助、さん。」
「そう、アタシですよアタシ。」
喜助さん・・?
こ、こんなかっこいい人だったの・・・!?
これが正直なところ。
「どうして、そんな格好してるんです・・?喜助さんの顔、・・初めて見た・・・。」
「まぁ、色々とありましてね。 それより、・・・」
喜助さんに手首を引かれた。
締まった眉に、どこか優しさを宿すその瞳。
すっと通ったはなすじ。
少し無骨さを残す顎。
改めて見るそれに私の鼓動が高鳴った。
「「「どうした、!」」」
「「ちゃん!!」」
私がいなくなったから、みんなが来てくれたみたいだった。
「!?・・下駄帽子!」
「あー、黒崎サン。キミがいるなら話は早い。」
そう、一護は私と喜助さんの仲を知っている。
喜助さんは私を引き寄せたまま、言葉を続けた。
「すいませんがね、今日はどうしてもに居てもらいたいもんで・・・。」
そう言うと私のボストンバックを持ち上げた。
「皆サンには悪いんですが・・・、はここで連れ帰られてもらいます。」
とはまたの機会に!と、苦笑いを残して私の手を引き、去ろうとした。
「わ、・・その、みんな・・・ごめんなさい。その・・・私・・」
「行ってこいよ!」
一護が笑って言ってくれた。
「寂しいけど・・・、行っておいでよ。」
タツキちゃんもそう言ってくれた。
「みんな・・・。」
「ホント突然、すみませんね・・・皆サン。」
喜助さんも頭を下げて・・・。
「ごめんね、みんな。また・・また今度一緒に行こう?」
みんなの気持ちが嬉しくて、また涙が出そうだった。
みんなと別れて駅の構内を歩く。
「 」
「・・はい。」
「この間は、すみませんでした・・・。今日の事も・・、アタシが悪かった。」
喜助さんは握る手に力を込めながら、数歩先の床を見つめながら言った。
「あの時、ちゃんとアナタの話を聞いていれば・・・」
「でも私、嬉しかった・・・・!」
喜助さんの言葉を遮り、そう続けた。
「・・。」
「いつも余裕そうにしているあなたが、
息を切らしてまで・・・こんな私を迎えに来てくれて・・・。
私・・・、すごく嬉しかった。」
力のゆるんだ手を再び私が握りしめ、
向き直った喜助さんの目をじっと見つめた。
でも何だか恥ずかしくて
「それに・・・、こんな支度までして・・。」
そう言って目線をそらし、照れるのを隠した。
「そう、っスか。」
そう言い、安堵の笑みをこぼす、あなたを見れば。
「?」
「 ? 」
本当にこの人の隣にいれてよかったと、そう思える。
私にはこの人しかいない、と。
「、どこか行きたい場所は?」
―あなたとなら、どこへでも。
そう思って、目を細めたら、それを読み取ったのか。
彼はひとまず
「でもまぁ、」
軽く上を見上げ、そして再びこちらを向き直し、満面の笑みで
「ハッピー・バースディ! おめでとう。。」
そう言ってくれた。
私には、これが一番のプレゼント。
あなたのその笑顔が、
一番の・・・何よりの贈り物。
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凪屋 アゲハ 様へ
いつもお世話になってます。
改めて見ると最悪ですね…この話は。
実を言うと私が書いた2作目の喜助夢だったんです。
今見るとホント「雑」の一言です。申し訳ありません;
もう既にUPして頂いているのですが…。
内容はないし、ベタだし…。
穴があったら入りたい(>_<)
これからもよろしくお願いします。
坂倉 お時