嬉しいときは 『嬉しい』、と。
本当に辛いことがあったときは 『辛い』、と。
そう素直に言える仲でありたい。
やさしさ
「隊長の髪って、きれいですよね…。」
「…………。」
直属の上司にいきなり突拍子もないことを言う。
浮竹がの上司である以前に、二人の仲は…。
「いきなり何言うかなぁ、お前は…。」
書類整理のためサラサラと動かしていた筆を止め、苦笑いをする。
「そもそもその台詞、男に言うことじゃないだろうに…。」
「いいじゃないですか、本当のことなんですから…そう思ったから口にしたまでです!」
の言葉に対し、浮竹は
今は仙太郎も清音もいないからいいものの、と溜め息混じりに告げた。
そう、今はいつも賑やかな隊長命☆な二人組はいない。
先程、他の隊の詰所に先月分の書類を届けに行ってもらったところだ。
気のせいか、やたら室内は静まりかえり窓から注ぎ込む光が暖かく感じる。
その光を浴びて業務をこなす彼の髪はより一層輝き、美しく見えた。
あれをきれいじゃないなんて誰が言えるかしら…とつくづく思ってしまう。
「なぁ、…。」
「…はい。」
「久しぶりだよな…こうやって二人で話すの。」
いつの間にか浮竹はまた書類に目をやっていた。
私は隊長の後ろにある大きな窓の向こう、
青く澄み切った果てない空をじっと見つめた。
「……ええ。」
空を見つめた目を閉じ、眉を寄せほんの少し俯いた。
「…そうでしたね。」
何だかしみじみしてしまって、ボソボソと呟くことしか出来なかった。
浮竹隊長はどんな人にも対等に接し、その上義理堅い。
人情というか、そういうものが無意識の内に心にある人。
‘義理堅い’だなんて言葉で片付けるつもりはないけれど、彼は本当に優しい。
隊長の傍にいるとこれが“本当の優しさ”なんだろうって思う温かさが伝わってくる。
心の底から温かく、強い志を持った人。
だから、誰からも信頼され人気もある。
そんな彼が私は大好きで、日々尊敬の念を抱かずにはいられない。
だけど、それ故に私は少し…寂しさを覚える。
特に仙太郎さんと清音さんの二人はいつも隊長に付ききりで、私の入り込む隙など何処にもないように感じてしまう。
彼らは第三席。私はその次に連なる第五席。
そうあって当たり前の状況に置かれていることは分かっている。
けど、どうしても……。
隊長と自分の遠すぎる力の差。
そんな時に限って、この事実が胸に突き刺さってくる。
こんな私なんかが彼の傍にいていいのかと。
私は自分の考えを思い切ろうと、きつく目を閉じ首を振った。
「―………。」
そんなを浮竹は一人静かに見つめていた。
の心をよぎるいくつもの感情に気付き、そして自らがその想いに胸を痛めているかのように。
「悪い、…ちょっとこっちに来てくれ。」
片手でに手招きをし、もう片方の手で机の引き出しを探り出した。
その姿を不思議そうに見つめながら近付く。
「…お、あったあった!」
「?…何なんです、隊ちょ……って、わ!」
いきなり手を引かれ気付けば彼の片膝の上に乗ってしまっていた。
「ご、ごめんなさいっ!直ぐどきますから…っ!」
「いいって、別に。それよりちょっと目、瞑ってくれ。」
「…えぇ?目、ですか?」
前触れもなく呼ばれ、近付けば手を引かれ彼の膝の上。
今度は目を瞑れと言われ、半信半疑なまま目を閉じる。
ガサ、という何かを開けるような音と
その数秒後には髪に隊長の手の感触を感じた。
「もう、いいぞ……。」
私の髪に置かれていた隊長の手が離れていった。
恐る恐る目を開けてみる。
「わっ!?」
前を見た途端、自分の顔があるので驚いてしまった。
「オイオイ、鏡見てそんな驚く奴はいないだろ…。」
「何だ……鏡か…びっくりしたぁ…。」
目を開けたら隊長が私の目の前に鏡を差し出していたのだった。
見た途端自分のドアップな顔があるなんて、驚くなって言われても、それは無理です!
「まぁいい…鏡見てみろ。」
「 ? 」
再び私は鏡を覗き込んだ。
すると――――。
「…………」
「これ、お前に似合うと思ったんだよ。」
「…………」
「一目見て、お前の姿が浮かんだんだ。」
「…………」
「……気に入って、もらえるか?」
「…………っ。」
「…?」
「…………―隊、長っ。」
涙が溢れてきた。
堪えても堪えても、涙が止まらなかった。
心の真ん中にズキっとした痛みを覚え、そこから熱が広まっていくのを感じた。
「俺なんかよりお前の髪の方がずっときれいだよ……。」
こんな台詞を眉を寄せ困ったように微笑むあなたを見てしまっては、尚のこと涙が止まるはずがない。
まさか、あなたからこんなものを貰えるなんて思ってもみなかったから。
お互い想ってはいても遠すぎると心に影を落としかけていたときだったから。
「な、泣くなよそんな…おい……。」
「隊長……っ。」
顔を両手で押さえて泣いた。
鏡に映った私の髪には、
黒と朱。
一輪の花模様。
上品な塗りの髪留めが付けてあった。
「私、隊長の…そ、ばに……いても…いいです、か…?」
「…馬鹿野郎。」
そっと目を開ければ、隊長の温かい腕の中だった。
「余計なことを気にするな。」
力無く震える手で隊長の羽織を握りしめれば。
「否とも俺が傍にいるさ…。」
互いに一度離れて、再び隊長の手が肩にまわって引き寄せられた。
私の額が隊長の顎に触れたまま、しばし優しくも甘い静寂の時を感じていた。
――――――が、しかし!
「あーーっ!!もう我慢できないぃっ!!!何やってるんですか、隊長!!!」
「たっ、隊長ォッ!!?」
聞き覚えのある賑やかな二つの声が降ってきた。
――――――――仙太郎と清音だ!
そう無意識の内に判断した私は身体の芯から、ぼぼぼっと熱くなっていくのが分かった。
その瞬間隊長と私はお互いを突っぱね、私は彼の膝の上から飛び降りた。
きっと隊長も私も顔が真っ赤だろう…。
何てタイミングの悪い…っ。
は、恥ずかしすぎるっ!!!
「い、いつからいた…?」
笑っちゃいるけど顔が引きつってるよ、隊長…。
「『悪い、…ちょっとこっちに来てくれ』からであります隊長!!!」
隊長は何も言わずただ片手で目を覆い、大きな溜め息を零した。
「さんずるいっ!!」
ゴ、ゴメンナサイ…。
「そうだぞ!!!!」
…え、あの、アナタ男ですよね?(違う
次は何を言われるかと冷や冷やした。
「あー、でも良かった!最近お二人共あんまり話してなかったみたいだしv」
「そうだな!!よっ、隊長・、おめでとうございます!!!」
お、おめでとうございます…?
そう思いつつ、隊長の方へ目をやれば彼もこちらを見ていて。
“全く……”と呆れながらも彼の目は笑っていた。
「さ、仕事だ!みんな。」
そう言って床にへたり込んだ私に手を差しのべてくれた隊長。
私はそんな彼が大好きで。
握りしめた手はもう決して離したくない。
これからも
心はいつも、あなたの傍に――――――。
ギャグ落ち…?(笑
初浮竹夢!! これも随分前に書きました。
きっと、浮竹さんの髪はサラサラとしていて美しいに違いない。
そんな確信のもと、書きましたv
あーもう浮竹さん、大好き!!!