白く零れる息
音もなく積もる雪
キミと迎える、何度目かの
この日
街には たくさんの光が溢れ
店頭には 眩しいまでの
キャンドルライト
辺りを見回しても
仲睦まじそうな 恋人たち
俺は ポケットに手を突っ込んで
キミの数歩後ろ
その後ろ姿 見つめながら 歩いてる
キミが好き
12月25日。
クリスマス当日、街へ繰り出せば、クリスマス一色の街並み。
所狭しと様々な売り物で、どの店も溢れかえり。
嫌でも目に付く、赤と緑の羅列。
いつもなら、何のことなく過ぎていくハズの日だったのに。
俺とは一生無関係な日だとばかり思っていたのに。
木葉通りは言うまでもなく、鮮やかに飾り立てられていた。
白い粉雪が静かに舞う中、赤と緑が映えて何ともきれいだ。
どの店の扉やショーウィンドーからも放たれている温かい明かりが、それらを一層引き立てている。
何と言うべきか、複雑な心境を胸にして、前を歩ちゃんの隣に並ぶべく足を進めた。
「……随分、冷えてきたね。」
「…そうですね〜、全く。」
吐く息も、悉く姿を白く変え、雪の舞う空へと消えてゆく。
「俺ですら肌寒いから………ちゃん、大丈ー夫?」
「はい、…大丈夫です!」
と言いつつも、冷たくなっているであろう手を小さな口元に寄せて暖めている。
ちゃんは一般人、俺と違って忍びではないのだ。
大丈夫って風にも見えないんだけどね、と苦笑しながら彼女の手を握ろうと動き出した自分の手を見つめた。
―…ダメじゃないか、俺。
好きでもない男に暖めてもらったって、喜ぶどころか嫌がるに決まってるのに。
行動に起こしたくても出来ない衝動がもどかしさを生む。
彼女と手を繋ぎたいってんじゃなくて、冷えたままの手を放っておかせるのが辛くてさ。
「あーっ!」
「 ? 」
自分の世界から、彼女の声で現実に引き戻され、何事かと慌ててそちらに目をやった。
「……どうか、した?」
「…ここのケーキ! クリスマスは人気でいつも売れ切れなのに…まだ残ってる……。」
余程のことなのだろうか。
彼女は片手で口を覆って、もう片方の手で、その人気がある店とやらを指さした。
なーんだ…そんなコト。
急遽現れた緊張感が、あっと言う間に緩んでいった。
でも、何だか…微笑ましくてね。
「……買う?」
無意識の内に笑みが零れて、彼女の返事を聞くまでもなく俺は忍服の後ろポケットを探った。
「…えっ、いや…いいですよ! 自分で買います。」
「…ま、俺に買わせてよ。」
「そんな訳にはいきませんよ…今日一日中、付き合って頂いちゃったんですし!」
「いーから、いーから……俺に買わせてちょーだいよ。」
律儀にも俺を止めようとするちゃんをしずめて、店へと向かった。
こんな時まで遠慮しなくても、いーのにね…。
…ま、俺は精々彼女にとって話友達程度なんだろうから、仕方ないんだろうけど。
喜びであろうと、痛みであろうと。
俺らしくない、この何処からともなく湧き上がるぎごちない感情には愛しさを募らせるばかり。
「…ごめーんね、お待たせv」
店先で、ほんの少し頬を染めて俯いている彼女に声を掛ける。
こんな時はそのかわいらしい唇にキスでもして……―って、俺!何を考えてる。
そんな仕草にも少々期待してしまってもいいのかと悩む俺はまるで。
初めて恋を知ったガキのよう。
通りの時計に目をやれば、もう時刻は夕方に差し掛かっていたから、お互い家路に着くことにした。
「私、限定物って何だか特別な気がしちゃって弱いんですよ……。」
「……へぇ、そーなんだ。」
並んで歩く帰り道。
ちゃんはそんな事実を恥ずかしむように言った。
元より物に対する執着や、物欲がなかったりする俺には自分に当てはめて考えることは出来ないけれど。
物を欲しがるからと言って決して貪欲ではない、その女の子らしい彼女の言行には、和んだり愛しく想えるものがあった。
じゃあ――――――
「それじゃ、…こんなのどう?」
「 ? 」
「''クリスマス限定恋人''なんてのは。 」
「…………」
いまいち意味が飲み込めてないようだ。
「冬季限定でも、いーよ? 今ならお得な写輪眼付き!」
自分の顔を指さして首を傾げて尋ねる。
「…しゃ、写輪眼?」
「そ! 何かと便利よv」
一般人でも、里で有名な血統のことくらい知っているだろう。
やっと、意味が飲み込めたのか。
けれど―。
何と予想外。
彼女は突然膨れたような顔をして、俺に背を向けてしまった。
「………、ちゃん?」
「……………」
返事が返ってこない。 ふざけ過ぎたのだろうか。
自分で言うのも何だが、俺は腐っても里屈指の上忍。
女からの人気もさることながら。
状況分析から人の感情を読み取ることくらい容易にこなしているというのに。
いざ彼女を前にすると今まで培ってきたそんな能力は無意味と化する。
例え、大凡見当が付いたとしても、それに揺るがない確信が持てないのだ。
今彼女は…一体どんな感情をその心に宿して。
一体……どんな顔をして、俺に背を向けているのだろうか。
「……いりません。」
「………え?」
「いらないん、です……。」
意外だった。
まさか、そう返ってくるとは。
彼女のことだから、こちらが戯けて言えば、冗談でしょうと笑って来るかと思っていたのに。
何気なく告白を込めた言葉をそのように返されてしまっては成す術がない。
けれど、次の一言でそうも思っていられなくなったのだった。
「……いいんですか…? クリスマス限定で…、冬季限定で。」
「…………え。」
「…いいんですか、そんなので。 そんな二人の関係で…―。」
僅かに憤りを込めたような声で彼女は言った。
「……カカシさんはモテるし、私より綺麗な人が周りに沢山いますし…あなたにとって私なんか遊びのつもりかもしれないけど…。」
―違う!
…違うんだ、って心の中で叫んだ。
熱くなる胸の内で叫ぶだけで、声に出すことが出来なかった。
何故なら、今にも大粒の涙を零さんとする彼女の顔を見入ってしまっていたから。
それに彼女の気持ちも知りたかった。
「…っ私、カカシさんのこと…ホントに好きだから!…だから…。」
「―…。」
''だから だから''と次第に声を小さくして、その代わりに顔を紅く染めながら繰り返す彼女を。
俺は気付けば引き寄せ、この腕の中で抱きしめていた。
「だから…っ、そんなこと……出来ないんです……。」
「……………」
「期間限定でお付き合いするなんてこと……出来ないんです、っ。」
「……ゴメン、ちゃん。 俺が悪かった。」
本気で心から惚れた女に告白も出来ないで、卑怯な手を使って探りを入れる男なんて。
「サイテーだよね〜……?」
でもその時俺の中で何かが変わった。
揺るがぬ覚悟が出来た、と言うべきかな。
目を伏せ、彼女の髪に指を絡ませながら、そう告げると。
この腕の中でちゃんは首を横に何度も振った。
俺が悪いのにだよ〜?
「ごめ、んなさい……。」
「いや、違う……卑怯な俺が悪い。 謝らないで?」
そのままでも良いけど、聞いてくれたら嬉しい。
と言いながら、少しばかり体を離して彼女を見つめる。
粉雪がしんしんと空から舞い落ちる。
こんな時は、不思議と音が遠ざかるんだ。
二人立っているこの場所の音くらいしか、耳に付かない――――。
「キミが、好き。」
冬の、雪の寒さなんて、どうでもいい。
どんなに凍える夜だって、君とこうして抱き合えば良いんだから。
二人の心が凍らなければ、それはいつまでもずっと。
期間限定だなんて、つれないことは言わないで。
いつまでも笑っていよう。
どんな困難があろうとも、乗り越えればいいのだから。
君を不安にさせるものがあるなら、俺が守り抜いてあげるから。
君だって自然と俺の痛みを和らげてくれるから。
いつまでも笑っていよう、この先ずっと。
君と二人で――――――――。
クリスマス夢でございました。
ホント、雪の日って静かですよね。