また来年も
いつ何時も鼓膜に響く黄色い声。
愛読書を広げて座っていれば、嫌でもすり寄ってくる女ども。
「「「「「…カカシ上忍〜v」」」」」
「…………」
俺はいい加減辟易していた。
今日は9月15日で、俺の誕生日だった。
正直今日になって、プレゼントを渡されるまで気付いていなかったのだが。
誕生日ともなれば、寄りたかる女の数もいつも以上に多く、
こっそりと待機所を抜けては誰もいない木の上で本を読んでいた。
わざわざこの日の為にプレゼントを作ってくれた子には申し訳ないんだけれど、
俺はそれを片っ端から断ることにしている。
別に今の俺に付き合ってる人がいる訳ではなく。
単に後々その贈り物を理由に無理な交際を要求されたりと色々面倒な場合があるからだ。
正午を過ぎた辺り。
真上から照りつける太陽の下、
俺は受付に報告書を提出しに向かっていた。
「ナルト達、元気にしてますか…?」
「まぁ、相変わらずですがね…元気だけはありますよ」
「…そうですか! あ、はい結構です。 報告書の方には問題ありませんので」
「…どーも」
ナルト達の元担任であるイルカ先生とお愛想程度の会話をしてこの場を去ろうとしたとき、
後ろの方にまた何人か気配を感じたので彼に苦笑を一つ残して、瞬身でその場を後にした。
人気のなさそうなアカデミーの廊下まで来ると、遠く子供達の声が響いていた。
青い空に白い絵の具を筆ではらったような雲が、直向かえる夏の終わりと秋の到来を告げているようだ。
「……ったくねぇ〜」
ポケットに両手を突っ込んで、周りに誰もいないのを良いことに俺は盛大なため息をこぼした。
廊下の窓から見える空は青く、宙を飛び回る鳥達も悠々と時間を過ごしているように見えた。
「天気は良いんだねぇ…、全く……」
空を見上げながら、そんなことを呟いた。
すると一つ先の教室の戸が開いた。
そちらに目をやれば、腕に書類を抱えながらやってくる女性の姿があった。
教室の鍵を閉め、先程俺が見ていた窓から見える景色をその人も眺めていた。
静かな廊下にその人の足音が響く。
「良い天気ですね……」
「……そうですね」
咄嗟に話し掛けられたものだから、拙い返答になってしまった。
「こんな晴れの日がお誕生日だなんて、…良いですね」
「……あぁ、まぁ。 今日が俺の誕生日だって、ご存じなんですか?」
「同僚が、随分と前からずっと騒いでいて……」
これは単なる興味本意だった。
まるでその同僚とやらに代わって謝罪するかのように、困った風に笑った彼女。
よくよく見れば、何処かで何度か見かけたことのある顔だった。
そのとき俺は、わずかながら安堵感を彼女に抱いたのだった。
「お誕生日、おめでとうございます」
そう一言、笑顔と共に残して去っていこうとした彼女。
俺の返事も聞かぬまま…いや、ハナからそんなものは求めてはいなかったのか。
変に媚びた感じもなく、平凡な日々を精一杯に楽しく生きようとしている彼女の後ろ姿を俺はいつの間にかじっと見つめていた。
夏の火照りを冷まし落ち着きを与えてくれる、秋風のような人―。
それが彼女のイメージ。
さっきは、向かいに女の姿が見えて。
先程のしつこい女どもみたいな振る舞いをされやしないかと、うんざりしていたのだが。
「 お誕生日、おめでとうございます 」
その一言。
それは至極凡庸なもので。
けれど、そのささやか言葉の裏に秘められた想いに俺は何故かひどく惹かれた。
それを認識したと同時に、次第に離れていく彼女の腕を掴んだ。
「………カカシ、さん…?」
「…さん……」
「……どうして私の名前を…」
「受付によくいる、人だよね……?」
「…………はい」
「……名字も教えてくれないかな、良かったら」
ほんの数分、もしかしたら5分にも満たなかったかもしれない。
けれど。 そのわずかな時間に感じた雰囲気に、酔わされていた。
そしていざ別れの瞬間を迎えては、その雰囲気が消えてしまうのがひどく惜しく思われて。
一種の衝動のようなものだ。
どうか、もう一度彼女の持つ雰囲気の中に俺を置いてほしくて。
また来年、いや それからもずっと、
来る年ごとに彼女にあの言葉を投げかけてもらえたらと思っている自分に気が付いて。
その為に、俺は一歩を踏み出した。
これは誕生日夢なのか…?
書いていて自分が分からなくなってきました(苦笑)
そして名前変換一つでごめんなさい。
ホントは一つも無かったんですが無理矢理足しました。
カカシ先生、お誕生日おめでとう!!