たとえば 春で言うのなら
−惜春
淡く 時に 鮮やかに 咲き誇る花を眺めて
目の前で 桜は 咲き誇っているけれど
いつかは 俺の名残惜しさを取り残して 散っていってしまう
その時のことを考えたら 今はまだ 幸せなのかな って 思わなくもないけど
でもさ
現実に戻れば 今の俺は 春ですらなくて
まだまだ夏に慣れた身体に凍みる 秋風の吹く 10月 なんだよね
願わくば
空気が澄んで、夜空に瞬く白い星々。
今夜は、アスマや紅、ガイ達と酒酒屋で飲み合っていた。
じゃんけんに負けたガイが泣く泣く財布の口を開けていたのは、まぁ…いいとして。
酒によって火照った身体が冷たい夜風に冷やされ心地良い。
「お疲れー、カカシィ」
おやおや、。 珍しく結構酔ったみたいだね…。
すると、ドカッと音を立ててが店の外に出してあった酒樽に躓いて転びそうになった。
「……‥わぁたっ…」
「大丈ー夫…? 」
ともなれば、俺は自然と腕を伸ばして彼女がつんのめるの止めたのだが。
「…あ、はは…ごめーん、カカシィ……ありがとー」
こりゃ随分酔ってるな…大丈夫か。
まだ開いている店の戸から、紅に肩を貸したアスマと財布を見つめるガイが出てきた。
そこですかさず、アスマが一言。
勿論、今は俺に身体を預けている状態だ。
「…へへっ、良かったなぁ〜カカシよォ」
「……なーにが言いたいの?」
「とぼけんなや、カカシ……折角だ! 送ってってやったらどうなんだ?」
「そーよぉー、カカシー! あたしのをちゃんと家まで送り届けてちょーらいよっ!!」
ったく……お前らね。
複雑な想いのこもった溜息は夜空に消えていくばかり。
よろしく頼んだわよ、と奴らは俺達の前からさっさと姿を消した。
分かってて言うんだからヒドイもんだ。
覚えとけよ? お前ら。
「…おーい、……大丈夫か?……歩ける?」
「……う、ん…だいじょーぶ…」
俺に身体と預けたまま、ずっと下を向いている。
別に、を送っていくのが面倒だった訳じゃない。 寧ろ、買って出たいくらいだ。
「ったく……大丈夫って状態じゃないでしょーよ」
素っ気ない言葉の裏に、煩いくらい騒ぐ感情を隠す。
担ぎ上げるなんて、彼女相手に出来る訳なくて。
壊れ物を扱うのと同じように、そっとを俺の背中に乗るように促した。
「……重いでしょー…ごめん、ね………カカシ…」
「いーよ、別に。 ちゃんと届けてやるから…寝てなよ」
初めて背負い上げたの身体は、あんな壮絶な任務をこなしている上忍とは思えない程のもので。
やっぱり、強がるところはあっても根は優しい、ホントは華奢なところもある女なんだと思った。
ゆっくり ゆっくり。
彼女の安らかな眠りを妨げないように。
ゆっくり ゆっくり。
ずっと、少し肌寒い星空の下、静かな虫の声に耳を傾けていたいから。
ゆっくり ゆっくり。
でもホントは、少しでも長い間、キミを俺の背中で背負っていたいから。
「………カ、カシ」
「ん、起きてたの……?」
寝言か?
こんな季節の所為か、服越しに伝わる仄かな温もりが気持ちよくて。
酔っていたとは言え、何の抵抗も見せず俺の背中に乗ってくれたことも嬉しくて。
いつまでも一緒にいたいなんて、思ってしまう。
本当に、離れがたい。
願わくば、このままキミを抱きしめて何処かへ消えてしまいたい。
なーんてね。
ったく、何を考えてんだ、俺…。
柄にもなく飲み過ぎたか?
目を閉じて、思わず自嘲の笑いをこぼした。
「……………ん、……」
顔を後ろへやれば、彼女の穏やかな寝息が首筋に掛かって。
彼女を奪ってしまいたいような、そんな衝動に駆られても。
でも。 本気でそんなことする気には到底なれなくて。
そんな時。
突然、の俺の肩に捕まる力が強まった。
「…………カカシ…」
「 ? 」
「………やっぱ、優しいんだよね…カカシって、さ…」
「……………」
正気なのか、夢うつつで言っているのか。 正直分からない。
好きな子にそんなコト言われて、面布の下。 顔が緩まずにはいられないけれど。
かえって、彼女がこんなのことを口にするのは酔いの所為だと思うと切ない。
は…俺のものじゃないし。
かと言って別に彼女は誰かと付き合っている訳でもない。
でも―。
きっと彼女の好意はこちらに向くことはないだろう。
この先も、ずっと。
それでも、いいんだよ 俺。
君が幸せなら。
「大好きだよ、カカシ―…」
「……………え?」
それと同時に後ろから彼女が俺の首にギュッとしがみついた。
何て言ったの、?
今、何て言った………?
ダイツキ? ダイフキ?
よく聞こえなかったけど、俺の心臓が急速に動き出した。
でも、もし俺の望む言葉を発したのだとしても、酒の所為だろうと…熱くなった勢いに任せて。
「……な、何寝ぼけてんの、………」
はとんでもない捨てゼリフを残して、それきりまた夢の中へ。
聞き間違いだと思うようにしたけれど、でも何て返して良いか分からなかったのが正直なところだった。
どうすればいい?
俺、どうすればいいんだ……?
初めて恋を知ったガキみたいに。
俺は一人、余裕を失い、いつまで経ってもまとまりそうのない思考を巡らす。
俺はこれからずっと、
春の儚さも知らない、秋みたいな日々を過ごして行くんじゃないかと思ってた。
だけど、次の春には…
ホントの春が見れるって思っても良いんだろうか。
願わくば、
明春の桜の下に君と並んでいられますように。
何だ、何だこの乙女チックなカカシは!
台拭き・台付きって…流石に自分でもどうかと…思います…。
もっとかっこ良いカカシが書けたら、な…。