「…キュウゾウ」





   「………」






   「キュウゾウ!」



   「………」






   「返事ぐらいしたらどうなの!?」



   「…何か用か」






   「その返事は間違ってる!」




   は びしっとキュウゾウに指をつきつけた。





   「なんであなたがここにいるのよ!?」





   その問いかけにキュウゾウは軽く首をかしげた。




   
   「どうして…とは」



   「……あのね…ここは私の部屋でしょうが―――――っっ!!」














   君の傍にいたくて














   虹雅渓・アヤマロの屋敷。



   護衛であるの部屋に、同じく護衛のキュウゾウがいた。

   しかも何気にくつろいでいる。

   ほんの少しの変化なのだが、の目には確かにくつろいで見えた。




   「さっさと出て行きなさいよ!」



   「………今までと同じだろう」



   「一昨日までは仕方ないとしても! 昨日部屋片付けたでしょ!?」









   ――― 一ヶ月前。



   目覚めたらキュウゾウの顔がすぐそばにあって心臓が止まるかと思った。

   

   は咄嗟に斬りつけたのだが、残念ながらキュウゾウも飛び起き、紙一重で避けられた。

   …畳には、その時の刀傷が残っている。


   憤慨してキュウゾウを彼の自室に放り込もうとしたのだが、中はすでに廃屋と化していた。
 

   どうも部屋にあったものを全て斬りつくしたらしい。

   足の踏み場もなかった。


   仕方なくは、寝ている時に半径1.5m以内に入ってこないことを条件に部屋の片隅で寝ることを許可したのである。


   しかしキュウゾウはいっこうに部屋を片付けない。

   それどころか日に日に荒廃が進行していくので、昨日ついにが実力行使に出た。

   ―アヤマロから休みをもらって大掃除を開始したのだ。

   ヒョーゴやらテッサイやらも刀でおどしつけて手伝わせた。


   斬られたものは使いものにならないので、全部捨てた。

   部屋は空っぽになったがキュウゾウは気にしまい。

   二度と部屋でものを斬らないように言い、彼もそれを承知した。…というかさせた。


   なのに。




   「何戻って来てんのよ!?」


   
   の怒鳴り声にも目の前の金髪男は表情を変えなかった。



   「…………寝る場所がない」


  
   その答えには目を見開く。




   「はぁ!?」

  
   「寝る場がない。 だからここに来た」



   「バカ言わないでよ! あなたの部屋、昨日綺麗さっぱり空にしたでしょ! …まさか約束破った!?」

 
   「破っていない」


   
   「じゃ、何でよ!?」




   黙り込むキュウゾウ。

   埒が明かないと思ったは、キュウゾウの腕を引っ張り彼の部屋へと向かった。





   
   「さぁ、どういう訳か見させてもらうわよ」


   これで何もなかったら殺してやる。

   …そう決心しつつ扉を開けて中に踏みこ―――もうとして固まった。


   目の前にあったのは、壁。



   「なっ…な…!?」


   もって細かく言えば、数多の年輪。


   「あんたの部屋はいつから薪小屋になったよ!?」


   どう見ても薪にしか見えない大きさの木が、上まできっちり積み上げられていた。

   一本取り出すのも苦労しそうだ。


   キュウゾウが淡々と説明する。




   「が物品を斬るなと言ったから庭で木を斬った」


   「部屋に持って帰って来なくていいのよ!」


  
   「御前が大事にしていた盆栽も斬った。 証拠隠滅のために全てを入れたらこうなった」

   
   「妙なところに頭が回るんだな、オイ」




   その頭で「斬ったらどうなるか」を考えて欲しい。


   軽い頭痛を感じながら、は薪を見た。



   「…少しずつ外に売るしかないかな…」



   奥までギッシリあるとすると、一体何日かかるだろう。

   はため息をつく。


   と、そこで一つ別の案が浮かんだ。




   「キュウゾウ。 ヒョーゴの部屋に寝泊まりしなよ。 男同士の方が気楽でしょ」


   「断る」


  
   「即答!? 何考えてんのよ、あなたは!?」



 
   並みの侍より腕がたつとはいえ、は女子である。

   今までだってよくよく考えればおかしいのに、何故 の部屋を所望するのか。




   「…………」




   キュウゾウはを見やり、




   「気楽さより、の寝顔の方が良い」




   さらりと言ってのけた。


   は一瞬呆けた。

   が、みるみる顔が怒りと恥ずかしさで真っ赤になった。




   「―――――帰る!」



   そう吐き捨てるように言い、猛然と歩き出した。

   その後ろを当然のようにキュウゾウがついていく。




   「ついて来ないでよっ」


   「寝る場がない」



   「だからヒョーゴの所に行きなさい!」


   「嫌だ」



   「じゃあ木の上にでも…」


   「気はもうない」


   「全部斬ったの!?」




   そんな二人の口論が完全に遠ざかった頃、キュウゾウの部屋の前に人が現れた。




   「…考えたな、キュウゾウ」


   「この量なら2・3ヶ月はスペースがないでしょうからな」



   言わずもがな、ヒョーゴとテッサイである。



   「あいつめ、こんな事ばかり知恵を増やして…こちらにばかり迷惑を…」



   実は、初めにこの部屋を荒らしたのはヒョーゴ達だったりする。

   何も考えていなさそうなキュウゾウがの部屋に入って行くのを見た彼らが、翌日に屋敷を破壊されないよう、細工をしたのだ。


   が、キュウゾウがこれ幸いとばかりに部屋を放置、逆に何か持って来ては切り刻む姿には呆れた。

   …そこまでするか。




   「殿も可哀想に。 ―――まぁ、気付かない殿が悪いのか…?」


   「キュウゾウ自身気付いていないだろう」



   
   キュウゾウの行動が恋情から来るものだと、本人達が気付いていない。

   両方とも、その手の話には疎そうである。

   いや、今回のセリフで気付いたか?



   「……さて…あいつ、御前の大事な盆栽も斬ったと言っていたな」


   「……………」



   夜の間に箝口令がしかれたのは言うまでもない。


   哀れ アヤマロ。


   大事な盆栽の行方は永遠にわからなかった。








   









   「ちょっ、1.5m以内は来るなって言ったでしょう!?」


   「寝ていない。 起きている」



   「『寝転がってる』って言うのよ!」


   「……『横になっている』」


   「却下!」




   怒ってばかりで目を合わせようとしないを、キュウゾウはじっと見ていた。





   「……



   「何よ!?」





   「 傍にいたい 」



   「―――――何、その突飛な言葉は!?」
















          傍にいたい。




          様々な嘘の中で、




          それだけが真実。




















   宝瓶宮〜Aquarius〜 明葉様 からの頂き物です!
   明葉さん、どうもありがとう!! 私、何にもしてないのに頂いてしまった…ごめんなさい;
   こんな素敵なキュウゾウ夢を書くことの出来るあなたには脱帽です。
   是非、見習わさせて頂きます。 本当にどうもありがとうございました。

   管理人 坂倉 お時